見えざる腕

 

 
『ボンソワール
親愛なる諸君、
今宵幻想楽団が
奏で、魅せる
演目は、
数奇な運命に
囚われし男達の
知られざるロマン
被害者は誰で
加害者は誰か
見えざる腕が
月夜に疼く……』
 
 
眠れぬ宵は
路地裏の
淫らな牝猫
(シャット)に
八つ当たりして…
嗚呼…
見えざるその腕で
首を絞める…
 
《夢幻影》
(ファントム・
ドゥ・レーヴ)
壊れゆく
自我(エゴ)の
痛み…
 
狂えぬ酔いは
屋根裏の
小さな居城
(シャトー)を
転げ回る…
嗚呼…
見えざるその腕の
灼ける痛み…
 
《幻肢痛》
(ファントム・
ドゥ・ルール)
安酒を
浴びて眠る…
 
 
(「Alvarez将軍に
続けー!」)
 
 
(黄昏に染まる
古き獣の森…
戦場で出逢った
二人の男…
金髪の
騎士(Laurant)…
赤髪の
騎士(Laurant)…
争いは廻り…
屍を積み上げる…
加害者は誰で…
被害者は誰か?
斜陽の影に
刃は緋黒く
煌めいて―― )
 
 
片腕と共に
奪1001[わ]れた
彼の人生(サヴィ)
仕事は干され
恋人は出ていった…
何もかも喪った
奪1001[わ]れた
最低な人生(ラヴィ)
不意に襲う
痛みに
怯える暮らし……
 
「大抵の場合
(ル・プリュ・スヴァン)…
貴方は
うなされ殴るから…
私は…
此の侭じゃ
何れ
死んでしまう1001[わ]…
 
さよなら
(オルヴォワール)…
貴方を
誰より愛してる…
 
それでも…
お腹の子の
良い父親
(ペール)には
成れない1001[わ]……」
 
葡萄酒
(デュ ヴァン)…
発泡葡萄酒
(ドゥ シャンパニュ)…
蒸留葡萄酒
(ドゥ オードヴィ)…
  
(嗚呼…
眠りの森の
静寂を切り裂き…
また奴が現れる――)
 
 
馬を駆る姿…
正に 悪夢 …
赤い髪を
振り乱して…
振う死神の鎌…
  
首を刈る姿…
正に 風車 …
緋い花が
咲き乱れて…
奮う精神の針…
 
闇を
軽るく纏った――
 
夢から醒めた
現実は
其れでも尚も
悪夢(ゆめ)の中
故に…
其の後の
彼の人生は
酒と狂気…
廻る痛みの中
左の頬に十字傷
赤く燃える髪に
鳶色の瞳(め)
奴を…殺せと
腕が疼くのだ
『見えざる腕』が
疼くのだ……
 
誰が加害者で…
誰が被害者だ…
死神を捜し葬ろう……
 
( 「殺してくれる!!」)
 
(騎士
(シュヴァリエ)は
再び馬に跨がり…
時は黙したまま
世界を移ろう――
 
異国の酒場で
再び出逢った
二人の男(Laurant)… )
 
隻眼にして隻腕
泥酔状態
(アル中)にして
陶酔状態
(ヤク中)…
嗚呼…
かつての蛮勇
見る影も無く……
 
不意に
飛び出した
男の手には
黒き剣
(エペ・ノワール)
(「退け。」 
「うわぁっ!」)
 
周囲に
飛び散った
液体(サン)
まるで
葡萄酒
(ピノ・ノワール)
(「何者だキサマ…
んっぐああああ」)
 
刺しながら…
供された
手向けの花の名(ナ)――
「こんばん1001[わ]」
(ボン・ソワール)
(「ボン・ソワール」)
 
抜きながら…
灯された詩の名――
「さようなら」
(オルヴォワール)
(「オルヴォワール」)
 
(「ははははははは……」)
崩れ落ちた
男の名は
Laurant…
走り去った
男の名は
Laurencin…
もう一人の
Laurantは…
唯…
呆然と
立ち尽くしたまま……
 
 
誰が加害者で…
誰が被害者だ…
犠牲者ばかりが
増えてゆく…
 
廻るよ…廻る…
憎しみの風車が…
躍るよ…躍る…
焔のように…
 
嗚呼…
柱の陰には…
少年の影が…
鳶色の瞳(め)で…
見つめていた……
 
(人生は
儘にならぬ
されど、
この痛みこそ
私の生きた
証なのだ)
 
(復讐劇の
舞台を降ろされ…
男は考えはじめる…
残された腕…
残された人生…
見えざる
その意味を――
 
 
杯を満たした
葡萄酒…
その味1001[わ]いが
胸に沁みた……)
 
(其処にロマンは在るのかしら?)